INTERVIEW
成安で学んだ知識や経験があるから
「できるかも」と思えるようになった!
世界三大映画祭の一つ、カンヌ国際映画祭「ショートフィルムコーナー部門」で、在学中に制作した『待合室』『納涼』が2年連続入選を果たした後藤由香里さん。2019年にアニメーション・CG コースを卒業し、4月からは建築用木材の加工業の仕事をしながら、副業としてアニメーションの制作に携わっているそう。当時を振り返ってもらい、入選した2作品の制作のことや、卒業して約1年、仕事と制作の両立についてお話をお聞きしました。
後藤由香里さん
会社員・作家
2019年、成安造形大学 メディアデザイン領域卒業。在学中、第71回・第72回カンヌ国際映画祭「ショートフィルムコーナー部門」で『待合室』『納涼』が入選。卒業後は仕事をしながら、アニメーションの制作を行う。
アニメーションを本気で始めたきっかけは
みんなからの大きな拍手
広島から滋賀の成安造形大学を選んだ理由を教えてください。
住んでいた近所にも美大や芸大はあったのですが、予備校で紹介された中に成安があり、オープンキャンパスに来ました。その時に雰囲気が好きだなって。後は、卒業後の進路を決めていなかったので、成安だったら作家として歩む道と就職をする道、どちらへ進むことも学びの先にあるのを感じました。他の美大や芸大は学生が自由に学ぶ感じを受けたのですが、成安は少人数制で先生が一人ひとりの学生に対してしっかり向き合ってくれそうなところも選んだ理由の一つです。
アニメーション・CGコースへ進もうと思ったのはどうしてですか?
1年生の時は、写真、グラフィックデザイン、アニメーション、CG 、映像などさまざまなジャンルについて総合的に学ぶことができたのですが、その中で一番楽しかったのがアニメーションでした。昔から絵はよく描いていましたが、アニメはその当時あまり認識していませんでした。今でも2年生の時の経験が印象に残っていて、映像のグループ制作をする授業でプロジェクターを使いながら発表を行なったのですが、終えたときにみんなから大きな拍手をしてもらったのがすごくうれしくて、その時にアニメーションを続けてみようって思いました。
在学中にはじめてつくったアニメーションはどんな作品だったんですか?
授業で「しりとりアニメ」というのがあって、もらったお題から自由に生き物や物に変形していく様子を描き、アニメーションにして次の学生に渡していくという課題でつくった作品です。私がもらったお題が「宇宙人」だったので、宇宙人からきつねに変形するまでの絵を描きました。鉛筆で何コマも描いて、絵をスキャンしてアニメーションにする基本的な授業だったのですが、つくっていく過程がすごく楽しかったです。
「え?カンヌっていいました?」
驚きすぎたまさかの入選!
カンヌ国際映画祭の「ショートフィルム部門」に出品したきっかけは?
メディアデザイン領域の櫻井宏哉先生が「これいいと思うから」と言って出品してくださいました。2年生の時にも出品して、それは選出されなかったのですが、3年生の授業で制作した『待合室』と4年生の卒業制作『納涼』が選出されてまさかの入選! すごく驚きました!
『納涼』の構想はいつ頃からありましたか?
内容は3年生の前期あたりから考えはじめました。バス停にいろんな人が行き来する光景を、定点カメラで撮影しているようなアニメーションにしました。小さい頃からあじさいと雨が好きで、バス停を選んだのは雨の日に利用する人が増えるだろうなって。
技法はカットアート(切り絵)と紙人形などを使いました。コマドリの技法でつくりたいというのは考えていて、つくりはじめる前に見たアニメーション作家さんが使っていたのがマルチプレンカメラでした。ガラス板を何層が置いて下向きのカメラを上に設置し、一番下のガラスに背景、次に人物を置き重ねることで奥行きを表現する方法です。
ちょっとずつ切り絵を動かして撮って、動かして撮っての繰り返しなので時間がかかりました。映像の編集も自分でしたので、約2分の作品をつくるのに制作に費やした時間は3〜4ヶ月くらいです。制作期間は苦しいことの方が多かったですが、ときどき一瞬楽しいときがあって、自分が想像しているように動いてくれたとか、花が可愛くつくれたりとか、自分のイメージ以上のものができるときがあったので頑張れました。
完成した作品が入選する手応えはありましたか?
作品に自信はあったので、どこかのコンクールに出品して賞が取れたらいいなとは思っていましたが、まさかカンヌ国際映画祭というすごく大きな祭典で賞をいただけるとは思っていませんでした。最初に入選を聞いた時の私の驚き具合をどう表現したらいいか分からないくらいです。心の中で「え?カンヌっていいました?」ってなりました(笑)
4年生のときに入選した『納涼』は、『待合室』とは技法が違ったとお聞きしました。
『納涼』の絵はステンシルと消しゴムハンコでつくりました。どういう絵柄や画面にしようかを考えているときに、先生が持っていた絵本の原画のカタログに載っていたステンシルっぽいイラストを見てこれだなって。ステンシルは小さい時に遊びで描いたくらいでしたが、手探りで完成させました。最初は鉛筆でキャラクターの線を描いて、その状態でパラパラめくってキャラクターの動きを見ます。それが終わったらステンシルの型をつくって、着色をするという工程です。着色作業は単純作業なので大変ですが、実際に動いているのをみると苦労が報われるのを実感しました。1秒に約8枚ずつ描くので、約2分の作品だから900枚くらい描きました。制作時間は『待合室』と同じくらいかかりましたね。
『納涼』のストーリーを考えるきっかけはあったんですか?
『納涼』は天狗が出てくるんですけど、小さい時に陶芸を習っていたときの先生が神様とかに詳しくて、一緒にお寺へ行ったときに、ここ天狗がいるんだって教えてくれた話が記憶に残っていて。幼少期の頃の経験や昔から想像していたことをお話にすることが多いかもしれません。
やりたいと思ったときが吉日!
いつでも動ける環境を整えたい
仕事をしながら今もアニメーション作品をつくれていますか?
実は今は日々忙しくて自分のアニメーション制作にはあまり着手できていません。仕事をしながら映像の制作会社の方から依頼を受けて、背景を描く機会をいただいています。昼間は建築木材の加工の仕事をして、帰宅後や休みの日に背景を描いているので自分の作品をつくる時間がとれていないですね。
自分の作品以外の制作に携わって感じることは?
私は知らないことに手を出すのが遅い方だと思っているのですが、他の方の作品で今までやってきた絵の雰囲気とは違うものにもチャレンジできるのは、成安でいろいろ学んだからこそだと実感しています。大学でやったからできなくもないって思えたらつくれるのかなって。依頼者の方とお話をしているときに、卒業制作で消しゴムハンコをつくったことを伝えたら、消しゴムハンコをつくる依頼をいただけました。
後藤さんの今後の目標を教えてください。
また何か自分の作品をつくれたらとは思っています。まだ定まってはいないんですけど、表現したい風景は頭の中にあります。
あとは気になったりちょっとやってみたいと思ったときに、すぐに試せる環境には常にいたいです。健康だったり、気持ちも元気だったり、いろいろ出かけるための資金があったり。思い立ったら吉日じゃないですけど、そのときの熱量を大事にしたい。時間がたったら消えてしまうものもあるので、その瞬間を大事にしたいです。これから先、どういう方向に進むかは分かりませんが、いつか実家の近くに古民家を借りて、制作をしながら暮らせたらいいなと思っています。
2019 09/09