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SEIANOTE

成安で何が学べる?
どんな楽しいことがある?
在学生の制作活動から卒業後の活動までを綴る
「SEIANOTE(セイアンノート)」です

ABOUT

活動も勉強も好きなことができる環境って本当にありがたいと思う。

NOW SEIAN
ライフスタイル編

活動も勉強も好きなことができる環境って
本当にありがたいと思う。

三輪泰生さん

地域実践領域・
クリエイティブ・スタディーズコース 2年生

大学の授業における研究やフィールドワークにとどまらず、
学外でのプロジェクトにも積極的に関わる学生がたくさんいます。
中でもアイドルとお寺の異色コラボのプロデュースで注目を集める
地域実践領域の三輪さんに会いに行ってきました!



〝学まちコラボ〟に認定された
「アイドルでお寺を元気に」って?

 京都市と(公財)大学コンソーシアム京都が主催する「2019年度 学まちコラボ事業」の文化枠事業として認定された「てら*ぱるむすの活動を通したお寺の新たな役割の発信」。これは、地域実践領域2年の三輪泰生さんを中心に京都や滋賀の複数の大学の学生が連携して活動しており、「お寺文化に触れるときっかけとなること」をコンセプトにしたアイドルで「お寺を元気にしよう」という取り組みなのだとか。
「え?お寺?アイドル?」と、疑問がいっぱいの方も多いはず。そこで、このプロジェクトの運営をしている三輪さんにお話を聞いてみました。

自然の多い地域で育った三輪さん。「山を登ってお寺にラジオ体操しに行ったり、お墓まいりしたり。自然もお寺も僕の中では違和感がなくて。てら*ぱるむすの取り組みもスッと入ってくる感じでした」


訪れる人が少ないお寺に
遊びに行くきっかけを作りたい

 お寺って、本来は地域の人が集まってくる場所で、僕も子どもの頃に境内
でラジオ体操をしていました。存在が特別なものでなくて、当たり前というか自然なものでした。でも、今、人手不足や経営が成り立たずに消えていくお寺がとても多いそうです。一部の大きな観光寺は別として、お墓参りや法事以外でお寺を訪れる人も少なくなっています。本来、地域のコミュニティであるお寺に人が来ない…ということは、いずれお寺の経営問題にも関わってきます。『そうならないために何ができる?』と考えた時、まずは、お寺に来てもらうきっかけが必要だったんです。じゃあ、仏教をコンセプトにしたアイドルグループにお寺で活動してもらおうって」。
三輪さんは、この取り組みを立ち上げた先輩たちからプロジェクトを引き継ぎ、今年から運営を行なっています。

大学生らしからぬ落ち着いた話ぶりは「活動でいろんな方とお話しをするので(笑)。あと、プレゼンテーションをするのが好きだからでしょうか」


浄土系アイドル『てら*ぱるむす』
仏教をテーマに活動中

そんな気になるグループの名前は、『てら*ぱるむす』。自らを〝浄土系アイドル〟と名乗り「衆生(ファン)と共に修行する」がコンセプト。「現在、月に2回のペースで京都や滋賀のお寺でライブを行っています。楽曲は、仏教をテーマにしたもので、御仏の教えが歌詞にも出てきます。それと、木魚を叩いて歌います(笑)。衣装は、袈裟(けさ)をモチーフにしていて、成安造形大学のコスチュームデザインコースの友人に作ってもらいました」。
また、ライブでは、お寺の住職に心得をお話しいただくなどワークショップも開催。仏教の教えの素晴らしさや、日本人が古くから親しんできた拠り所としてのお寺の役割もフィーチャーしています。
ファン層も多彩で、グループのファンや仏教好きの人のみならず、お寺を継ぐ立場の若い方たちが「今後の参考に」とライブに訪れるそう。「これからのお寺のあり方を模索している人が多いんだと思います。お寺以外にも、大阪の地下アイドルイベントにも出演したりして新規ファンの開拓もしています」。

さらに『てら*ぱるむす』は、これまでにミニアルバム2枚とシングル1枚、を発売。近々、9曲入りのCDを発売予定だとか。
「今、準備をしていますが大変ですね(笑)。いろんな方にアドバイスをもらったり、教えてもらったりしています。アイドルプロデュースでは、多くの方と仕事をするので、みんな考え方が違います。悩みは多いですが、普通の大学生では関われないような方に出会えるのは、この活動の特権ですね。先日はイベントのことで三井寺の住職にお会いしてきました」。

女性5人組の浄土系アイドル。お寺の本堂などで開催されるライブには、ペンライトで推しを応援するファンの姿も。CDの発売が楽しみ


お寺をみんなが集える
コミュニティスペースに

ライブをしたり、CDを出したりと活動の場をどんどん広げていますが、三輪さんは『てら*ぱるむす』を〝ただのアイドル〟では終わらせたくないと考えているようです。
「『てら*ぱるむす』は、アイドルをしながら地域の課題や街づくりにも関わっていて、ほかのアイドルにはできないことも、できていると思っています。僕は、お寺に新しい役割というか、来るきっかけができれば、人が集まって元気になる気がします。お寺が地域のコミュニティスペースになって、地域にとってかけがえのない存在になってくれたらいいなぁって。『てら*ぱるむす』がお寺と親しむきっかけになればうれしいですね」。


将来も好きなことを続けたい。
芸大で地域を研究できて良かった

プロデュース業で大忙しの三輪さんですが、自身の将来についてたずねてみると「卒業しても『てら*ぱるむす』をずっと続けていきたいですね。学生の取り組みから発展させて事業として成り立つよう頑張っているところです。大学の授業では、農業と林業のシステム作りを勉強しています。幼い頃から自然に触れる機会が多く、山の環境について興味を持っていました。この研究を進めて、何か貢献できる成果を出せれば嬉しいです。また、同じく〝自然つながり〟で食と農業を考える『ミノリブ』というサークルにも所属しています。高島市の畑を借りて自然農法にチャレンジし、収穫した野菜を学内のマルシェで販売することも考えています。こんな風に好きなことを課題にして、自由にやらせてもらえる環境があって、ありがたいなと思うんです。考え方とかアプローチの仕方とか『てら*ぱるむす』につながる学びも多くて、芸大で地域や文化について学べる、成安の地域実践領域を選んで本当に良かったなと感じています」


てら*ぱるむす

「煩悩多き衆生(ファン)とともに修行する」をコンセプトに京都市龍岸寺を拠点に活動している、学生中心の浄土系アイドルグループ。人々が気軽にお寺に立ち寄る機会を作り、お寺と人々の距離を縮めることを目標に活動している。2019年から京都市のサポートのもと地域貢献事業もスタート。地域の人々とお寺がつながれるようなイベントを開催中。


てら*ぱるむす公式サイト


成安で学んだ知識や経験があるから 「できるかも」と思えるようになった!

INTERVIEW

卒業から1年目

成安で学んだ知識や経験があるから
「できるかも」と思えるようになった!

世界三大映画祭の一つ、カンヌ国際映画祭「ショートフィルムコーナー部門」で、在学中に制作した『待合室』『納涼』が2年連続入選を果たした後藤由香里さん。2019年にアニメーション・CG コースを卒業し、4月からは建築用木材の加工業の仕事をしながら、副業としてアニメーションの制作に携わっているそう。当時を振り返ってもらい、入選した2作品の制作のことや、卒業して約1年、仕事と制作の両立についてお話をお聞きしました。

後藤由香里さん

会社員・作家

2019年、成安造形大学 メディアデザイン領域卒業。在学中、第71回・第72回カンヌ国際映画祭「ショートフィルムコーナー部門」で『待合室』『納涼』が入選。卒業後は仕事をしながら、アニメーションの制作を行う。


アニメーションを本気で始めたきっかけは
みんなからの大きな拍手

Q.01

広島から滋賀の成安造形大学を選んだ理由を教えてください。

住んでいた近所にも美大や芸大はあったのですが、予備校で紹介された中に成安があり、オープンキャンパスに来ました。その時に雰囲気が好きだなって。後は、卒業後の進路を決めていなかったので、成安だったら作家として歩む道と就職をする道、どちらへ進むことも学びの先にあるのを感じました。他の美大や芸大は学生が自由に学ぶ感じを受けたのですが、成安は少人数制で先生が一人ひとりの学生に対してしっかり向き合ってくれそうなところも選んだ理由の一つです。

Q.02

アニメーション・CGコースへ進もうと思ったのはどうしてですか?

1年生の時は、写真、グラフィックデザイン、アニメーション、CG 、映像などさまざまなジャンルについて総合的に学ぶことができたのですが、その中で一番楽しかったのがアニメーションでした。昔から絵はよく描いていましたが、アニメはその当時あまり認識していませんでした。今でも2年生の時の経験が印象に残っていて、映像のグループ制作をする授業でプロジェクターを使いながら発表を行なったのですが、終えたときにみんなから大きな拍手をしてもらったのがすごくうれしくて、その時にアニメーションを続けてみようって思いました。


Q.03

在学中にはじめてつくったアニメーションはどんな作品だったんですか?

授業で「しりとりアニメ」というのがあって、もらったお題から自由に生き物や物に変形していく様子を描き、アニメーションにして次の学生に渡していくという課題でつくった作品です。私がもらったお題が「宇宙人」だったので、宇宙人からきつねに変形するまでの絵を描きました。鉛筆で何コマも描いて、絵をスキャンしてアニメーションにする基本的な授業だったのですが、つくっていく過程がすごく楽しかったです。


「え?カンヌっていいました?」
驚きすぎたまさかの入選!


Q.04

カンヌ国際映画祭の「ショートフィルム部門」に出品したきっかけは?

メディアデザイン領域の櫻井宏哉先生が「これいいと思うから」と言って出品してくださいました。2年生の時にも出品して、それは選出されなかったのですが、3年生の授業で制作した『待合室』と4年生の卒業制作『納涼』が選出されてまさかの入選! すごく驚きました!

Q.05

『納涼』の構想はいつ頃からありましたか?

内容は3年生の前期あたりから考えはじめました。バス停にいろんな人が行き来する光景を、定点カメラで撮影しているようなアニメーションにしました。小さい頃からあじさいと雨が好きで、バス停を選んだのは雨の日に利用する人が増えるだろうなって。
技法はカットアート(切り絵)と紙人形などを使いました。コマドリの技法でつくりたいというのは考えていて、つくりはじめる前に見たアニメーション作家さんが使っていたのがマルチプレンカメラでした。ガラス板を何層が置いて下向きのカメラを上に設置し、一番下のガラスに背景、次に人物を置き重ねることで奥行きを表現する方法です。





Q.06

ちょっとずつ切り絵を動かして撮って、動かして撮っての繰り返しなので時間がかかりました。映像の編集も自分でしたので、約2分の作品をつくるのに制作に費やした時間は3〜4ヶ月くらいです。制作期間は苦しいことの方が多かったですが、ときどき一瞬楽しいときがあって、自分が想像しているように動いてくれたとか、花が可愛くつくれたりとか、自分のイメージ以上のものができるときがあったので頑張れました。

Q.07

完成した作品が入選する手応えはありましたか?

作品に自信はあったので、どこかのコンクールに出品して賞が取れたらいいなとは思っていましたが、まさかカンヌ国際映画祭というすごく大きな祭典で賞をいただけるとは思っていませんでした。最初に入選を聞いた時の私の驚き具合をどう表現したらいいか分からないくらいです。心の中で「え?カンヌっていいました?」ってなりました(笑)

Q.08

4年生のときに入選した『納涼』は、『待合室』とは技法が違ったとお聞きしました。

『納涼』の絵はステンシルと消しゴムハンコでつくりました。どういう絵柄や画面にしようかを考えているときに、先生が持っていた絵本の原画のカタログに載っていたステンシルっぽいイラストを見てこれだなって。ステンシルは小さい時に遊びで描いたくらいでしたが、手探りで完成させました。最初は鉛筆でキャラクターの線を描いて、その状態でパラパラめくってキャラクターの動きを見ます。それが終わったらステンシルの型をつくって、着色をするという工程です。着色作業は単純作業なので大変ですが、実際に動いているのをみると苦労が報われるのを実感しました。1秒に約8枚ずつ描くので、約2分の作品だから900枚くらい描きました。制作時間は『待合室』と同じくらいかかりましたね。

Q.09

『納涼』のストーリーを考えるきっかけはあったんですか?

『納涼』は天狗が出てくるんですけど、小さい時に陶芸を習っていたときの先生が神様とかに詳しくて、一緒にお寺へ行ったときに、ここ天狗がいるんだって教えてくれた話が記憶に残っていて。幼少期の頃の経験や昔から想像していたことをお話にすることが多いかもしれません。


やりたいと思ったときが吉日!
いつでも動ける環境を整えたい

Q.10

仕事をしながら今もアニメーション作品をつくれていますか?

実は今は日々忙しくて自分のアニメーション制作にはあまり着手できていません。仕事をしながら映像の制作会社の方から依頼を受けて、背景を描く機会をいただいています。昼間は建築木材の加工の仕事をして、帰宅後や休みの日に背景を描いているので自分の作品をつくる時間がとれていないですね。

Q.11

自分の作品以外の制作に携わって感じることは?

私は知らないことに手を出すのが遅い方だと思っているのですが、他の方の作品で今までやってきた絵の雰囲気とは違うものにもチャレンジできるのは、成安でいろいろ学んだからこそだと実感しています。大学でやったからできなくもないって思えたらつくれるのかなって。依頼者の方とお話をしているときに、卒業制作で消しゴムハンコをつくったことを伝えたら、消しゴムハンコをつくる依頼をいただけました。

Q.12

後藤さんの今後の目標を教えてください。

また何か自分の作品をつくれたらとは思っています。まだ定まってはいないんですけど、表現したい風景は頭の中にあります。
あとは気になったりちょっとやってみたいと思ったときに、すぐに試せる環境には常にいたいです。健康だったり、気持ちも元気だったり、いろいろ出かけるための資金があったり。思い立ったら吉日じゃないですけど、そのときの熱量を大事にしたい。時間がたったら消えてしまうものもあるので、その瞬間を大事にしたいです。これから先、どういう方向に進むかは分かりませんが、いつか実家の近くに古民家を借りて、制作をしながら暮らせたらいいなと思っています。




美術も、生活も「幸せ」のため。

INTERVIEW

卒業から3年目

美術も、生活も「幸せ」のため。
すべての原点は学生時代に

2015年度に現代アートコースを卒業し、京都市立芸術大学大学院に進学。
アーティストとして在学中から精力的に展覧会で作品を発表してきた菊池和晃さん。
大学院修了後は、作家であり、夫&父として家族を支えるべく、金属部品の製作所に勤務する会社員でもあります。「すべては幸せのため、美術を続けるため」と語る、菊池さんの学生時代から変わらぬ制作ペースの秘密とは?

菊池和晃さん

美術作家

1993年京都府生まれ。2016年、成安造形大学美術領域現代アートコース卒業。2018年、京都市立芸術大学大学院 構想設計クラス修了。『第18回ニパフ・アジア・パフォーマンス連続展』(3331 Arts Chiyoda)や『1floor2017』(神戸アートビレッジセンター)などで精力的に作品を発表する一方、私生活でもパートナー(妻)である、にしなつみとのユニットとして2016年に初個展『KISS』(KUNST ARZT)を開催。


生活の土台を整えれば
思い切り自由に制作ができる

Q.01

成安を卒業後、京都市立芸術大学大学院に進学され、4ヶ月前(2018年7月取材当時)に大学院を修了されたばかりですが、現在の環境を教えてください。

今は金属や樹脂の部品を加工する製作所で働きながら、制作を続けていて、秋には成安造形大学が運営する「キャンパスが美術館」の企画『2018 秋の芸術月間 セイアンアーツアテンション 11 playing BODY player』と、ボーダレス・アートミュージアムNO-MAでの展覧会『以”身”伝心 からだから、はじめてみる』には、妻とのアーティストユニット・菊池和晃+にしなつみで参加します。


美術に特化した身体”を目指し、自身の肉体をトレーニングするように作品を制作・発表するのが菊池さんの特徴。《Muscle:series》は筋トレマシンと、絵を描くマシンが一体化。描けば描くほど、菊池さんの筋肉も鍛えられていく。


菊池さんが勤務し、祖父が営む製作所事務所の一角には、作品の制作スペースが確保されている。《Muscle:series》を制作中の菊池さん。
Q.02

これまでは大学、大学院と制作中心の生活だったわけですが、社会に出て、ご結婚されて家族を支えていくなかで、不安はありませんでしたか?

大学院のときから、修了後はどこかに就職して働きながら作品をつくろうと思っていました。それは、大学生のときに先生がある学生に「アルバイトしながら制作するよりも、就職したほうが時間はつくれる」とアドバイスされていたのを聞いていて。
大学を卒業して、美術を続けていく人は、どこかで苦しくなっていく。何が最初に苦しくなるかというと、生活じゃないですか。あと、「僕は美術をやっているから、作家だから社会に適応できません」っていうのは、美術に対して失礼だと思うんですよ。そもそも、美術は人を不幸にするものではないですし。
だったら、先に生活を固めておいて、あとは自由にやろうと。給料があって、生活の基盤ができていれば、美術を続けることには不安にならないですよね。結婚したのが大学院1年生のとき、子どもができたのが大学院2年生のときだったので、京芸の先生とかにはビックリされましたけど(笑)、自分たちの生活を考えたとき、30歳くらいまでに子どもが3〜4歳になって、少し手が離れるようになってたほうがいいなと、妻とも話していたんです。




Q.03

大学院時代と、今とでは、制作スタイルに違いはありますか?

仕事があるので単純に手を動かす時間は減りましたけど、もともと、僕の作品は実際に手を動かす時間よりも、コンセプトなどを考えることに時間を使っていたので、あまり影響はありません。
大学時代と違って、今不安に思うのは「来年、再来年どうなるのか?」ということ。だからこそ、制作中心だった生活のリズムを変えないために「今どういうふうに制作をしなければいけないか」「今このコンペに出しておいたほうがいい」と、考えるようになりました。


入学後は、劣等感にさいなまれる苦しい日々。
それでも、自由につくれることは楽しかった


Q.04

大学入学時から、アーティストを目指していたのですか?

親に聞くと、小さい頃に「芸術家になりたい」と言っていたらしいんですけど、僕は覚えてません(笑)。高校生のときは何も知らなくて、“美術=岡本太郎”のイメージで、みんな自由で型破りなことをすると思っていたんですよ。漠然と近所の大学に入学するか、働くなら整備士の資格を取ろうかなって考えていたんですけど、高校2年生の夏に美術の先生から「絵を描くだけが美術じゃないんだよ」と、村上 隆さんの著書を教えてもらって美術の方向を考えはじめました。
そこから、近所のちびっこも通うような絵画教室で週に1回、デッサンを勉強し始めるんですけど、もう……僕のなかの岡本太郎のイメージが崩れるわけですよ(笑)。瓶と木を目の前に置かれて「さぁ、描きなさい!」と言われても、うまく描けないじゃないですか。結局、そのまま馴染めず、サボったりしながら受験が迫り、完成したデッサンはわずか10枚くらい(笑)。
賢くもないからセンター試験で受かるわけないし、絵も描けない。そんなとき、体験授業で受験できるAO入試があることを知り「これはチャンス」と思い、それで成安造形大学に入学しました。

Q.05

入学後は、どんな生活が待っていましたか?

それが……、1年生のとき、ほとんど大学に行かなくなったんです。入学が決まり、「今度こそイメージしていた“岡本太郎生活”が待っている!」と思ったら、絵画教室にいたときよりも長時間のデッサンに、パソコンやアプリケーションの基礎的な授業……。まわりのみんなは、美術の高校だったり、美術予備校に通っていたから、基礎を学んできていたんですよね。最初から上手だし、合評のときも、みんながきれいな絵を展示しているなかで、僕だけクシャクシャの絵を飾って恥ずかしかった。コンプレックスもあって、「これがやりたかったことなんかな?」とイヤになってしまったんです。



Q.06

一度はイヤになってしまった大学に、再び足を運ぶようになったきっかけは?

2年生になり、現代アートコースを選択してから、いくつかきっかけがあるんですけど、大きいのは自分の作品をつくって発表したこと。
基礎が必要なこととか、美術は僕がイメージしていた夢のような世界ではないことをなんとなくわかってきたなかで、やっぱり自由につくれることが楽しくて。学内で個展をやる授業だったんですけど、そこで作品をはじめて人に見せたときの高揚感はすごかったです。作品を見せて、リアクションが返ってくるのは嬉しかったし、楽しかったですね。
あと、大学にはあまり行っていなかったですけど、2年生の頃から「年に3〜4回は展示をしよう」と決めていたんです。はじめて学外で展示したのは、2年生になるときに応募した公募展『花山天文台gallery week』(2013/京都大学花山天文台)。学内でもギャラリーを借りて展示をしていました。この頃の展示ペースが、今のベースになっているのかもしれません。


最強のパートナーとの出会いと、作品の原点。
きっかけはとある授業の課題

Q.07

学生の頃は、どんな作品を制作されていたんですか?

今の作品の原点になっているのが、3年生のときに制作したパフォーマンスの課題です。この課題は、すでに発表されている作家のパフォーマンス作品を自分でひとつ選び、そのまま模倣をするというもの。僕は、“パフォーマンスアートの母”とも称されるマリーナ・アブラモヴィッチと、長年彼女のパートナーであるウーライとのパフォーマンス《AAA-AAA》を、当時交際していた彼女(現在は妻であり、アーティストユニットのパートナー)と再現し、《あああーあああ》を制作しました。


はじめてのパフォーマンス作品となった《あああーあああ》。それまではプロジェクターを使ったインスタレーションを制作していたものの、この経験から身体を用いた表現に作品が変化していったそう。


そうすると、先生に「もっとやってみたら?」とアドバイスをもらって、同じくマリーナ・アブラモヴィッチの呼吸を交換するパフォーマンス《Breathing in / Breathing out》から《吸入と排出》、ビンタをし合う《Light / Dark》から《明と暗》を制作。これは3年生の進級制作展でもパフォーマンスを行いました。


これらのパフォーマンスがきっかけで、美術史で描かれてきた“男女の愛のカタチ”を自分たちの身体を通して表現するアーティストユニットとしても活動をスタート。



Q.08

大学院に進学しようと決めたのは、いつ頃でしたか?

大学3年生くらいですね。はじめは就職も考えていたんです。でも、僕からすると、ようやく大学生活が始まった感覚だったので「このまま働くのはイヤだな」と。やっと、作品がつくれる、美術に触れられるようになって1年もまだ経っていないのに、もう就職のこと考えないといけないのか……と。
そんなときに先生から大学院という選択肢もあると教えてもらい、美術を続けていきたいので進学を決めました。京都市立芸術大学を志望したのは、自分とは真逆の性質を持つ場所に、身を置いたほうがいろんな変化が起こると思ったから。先生方のアドバイスもあり、大学院の先生にアポを取って会いに行き、僕のことを知ってもらうと同時に、京都市立芸術大学がどんな雰囲気なのか、実際に見たり、聞いたりしました。


Q.09

修士課程(大学院)の2年間は、どういう時間でしたか?

授業もより専門的になるし、これまでは感覚的に制作していたので、きちんと言葉で説明できるようにと思い、最初は勉強のため本ばかり読んでいました。京都市立芸術大学の持つインテリジェンスな空気を取り込もうとしていたんです。だけど「やっぱり無理やな」と思い(笑)、これまでのように自由につくってきた部分を強化していこうと、考え方をシフトしました。
大学時代からそうなんですけど、まわりのみんなが美術の基礎を学んできたなかで、自分は何も知らなかったし、できなかった。だからこそ、人に言われたことは素直に受け取れたんですよね。多分、“素直にできること”が、僕の強みなんじゃないかなと思います。「素直」ってことは、ノイズが少ないとも言えるので、エネルギーに対してそのまま大きく表現できる。作品を見て、ひと目で何をしているのかがわかることも、重要だと気づきました。


大学院1年時に、初個展となる『菊池和晃 + にしなつみ 個展 KISS』(2016/KUNST ARZT/京都)を開催。

京都市立芸術大学大学院の修了時、卒業制作展で発表した《アクション》で大学院市長賞を受賞。《アクション》は20世紀に活躍した画家ジャクソン・ポロックの手法「アクションペインティング」から着想した作品。


美術を続けるにしても、生活するにしても、
「幸せになる」には何をするべきか?


Q.10

菊池さんと同じように、美術を続けていきたい人に、何かアドバイスするとしたら?

これまで、妻や先生、いろんな人にアドバイスをもらって、助けてもらった上に今の自分がいます。進学を決めたときも、「やめたほうがいい」と反対する人はひとりもおらず、みんなに背中を押してもらいました。大切なのは、方向を自分で決めて、意思表示すること。そうじゃないと、まわりもアドバイスしようがないと思います。


Q.11

今後の目標は?

今は展覧会の時期も重なっている上に、妻は出産も控えているので、本当に鬼のようなスケジュールではあるんですけど……。いただいた話をお断りしたとして、その理由が子どものことや生活のことだとしたら、この先後悔したり、何か思うことがあるかもしれない。美術をやるにしても、生活するにしても「幸福になる」ってことが、僕ら夫婦の目標なので、そうではない要素は選択しないほうがいいなと思っています。
そう思うようになったのも、学生のときに、宇野君平先生(美術領域准教授)が「若いうちは、来た話は全部引き受けたほうがいい」と言われていて。カッコイイなと感銘を受けました。「若手」と呼ばれる時期が30〜35歳くらいで終わるとしたら、そこから先に進むには、ある程度のキャリアを積んでおかないといけません。まだ知名度もないので、これからもガツガツやっていこうと思っています。



卒業制作展2018レポート 【ファッションショー編】

REPORT

卒業制作展2018レポート

重要文化財での
ファッションショー編

バックステージでは朝から
本番に向けて大忙し

成安造形大学の卒業制作展恒例となっているのが、重要文化財でもある京都文化博物館でのファッションショー。卒業を控えた4年生だけでなく、3年生も参加し、モデルや裏方スタッフも含め、学生たちが一丸となって取り組むショーを裏側までたっぷりとお届けします。

ファッションショー「SEIAN COLLECTION 2018 -costume-」は、14:00と18:00の2回公演。朝9:00から学生たちは会場入りし、メイクや作品の最終調整に大忙し。楽屋の机にはプロ顔負けのメイクパレットがズラリと並び、後輩の学生たちも、ヘアやメイクを手伝っていました。


10:30からはリハーサル。本番同様に、モデルが次々とステージにあがっていきます。モデルたちも出品する学生たちが作品のイメージに合う人を探し、学内でスカウトした学生たちですが、音響や照明、スクリーンに映し出す映像を担当するのもメディアデザイン領域や空間デザイン領域の学生たち。裏方を経験することで、表舞台の見え方が変わったり、プロから機材の使い方を教わる貴重な機会にもなっています。

 

バックヤードでは、リハーサルを終えた学生たちに、ショーで衣装がより良く見えるように教員のアドバイスを受けて最終調整する姿も。開演の時間が迫るにつれ、舞台裏では少しずつ緊張感が増していきます。

ショーの幕開けは
力作揃いの3年生から

14:00、満席のお客さんが待つなか、いよいよショーがスタート。まずは3年生の作品から。

トップバッターで登場したのは、堀口和行さん「Good old play」。照明の下でキラリと輝いていたMA-1ジャケットは、帯をほどいて制作したものだそう。衣装だけでなく小物など細部までこだわりが光る全7ポーズは、とても服づくりをスタートして3年とは思えないクオリティ。



折り紙のようにオーガンジーを折ってつくられた西田明莉さん「美意識革命」や、サボテンやクラゲをモチーフにしたデザインに客席から「かわいい〜!」と声があがっていた大江紗由里さん「混在」など、来年の卒業制作が楽しみになる全7名の作品が発表されました。

4年生は衣装+パフォーマンスで
独自の世界観を舞台上で表現

4年生は5名がショーに参加。卒業制作展では、大津市歴史博物館で作品が展示されていましたが、やはりマネキンに着せている状態と、モデルが着用して動きのある状態では、印象が大きく変わります。

とくに、優秀賞を獲得した土屋亜希子さん「体の線」は、1枚の布が衣服になるまでのプロセスをショーのなかで表現。展示ではテキストでしか説明できなかった作品の意図が、舞台上で見事に表現されていました。

ただウォーキングするだけでなく、作品の世界観に合わせた個性的な演出も4年生のショーの見どころ。身体表現を絡めたパフォーマンスや、生歌を披露する学生など、趣向を凝らした演出で一気に観客を自分の世界に引き込みます。

展覧会やポートフォリオとはまた違う、生きた空間をどうデザインするかが求められるファッションショー。それぞれがユニークな演出で表現できているのは、もしかすると美術やデザインなど他領域との距離が近い環境で刺激を受けている影響もあるのかもしれません。

4年間積み重ねてきたことがギュッと凝縮されたショーは、舞台上に集合した全作品に贈られる大きな拍手で幕を閉じました。


取材日:2018/02/15
取材・文:小西七重
写真:金 サジ

卒業制作展2018レポート 【空間デザイン領域編】

REPORT

卒業制作展2018レポート

暮らしをつくる
空間デザイン領域編

空間デザイン領域ってどんなところ?

私たちの生活をとりまくさまざまな分野の専門を横断的に学ぶことができる、それが空間デザイン領域です。生活の基本要素である「衣」「モノ」「住」を空間的に扱う専門分野コスチュームデザイン、プロダクトデザイン、住環境デザインの3つの視点から、「空間デザイン」を見つめます。

新しい機能を持った場をつくり、
まちの風景を担う住環境デザイン

空間デザイン領域には、コスチュームデザインコース、プロダクトデザインコース、住環境デザインコースの3コースがあります。


住環境デザインコースでは、建築やインテリア、ランドスケープなどを横断的に学びます。人が暮らす場、集う場、はたまた新しい機能を持つ場のデザインは、何十年先も環境を左右する役割を担います。
 環境そのものをデザインすることは、あらゆる文脈からその土地を読み解き、課題を探り、新たな解決方法を示すことでもあるのです。

 

住環境デザインコースで優秀賞を獲得した「ほらあな公園」(田中美咲さん)は、子どもたちがのびのびと外遊びできる空間が減少している問題を解決するため、“自然と人口のはざま”をコンセプトにデザインした公園を提案。

自然の地形をいかして設計された公園の模型を見ていると、子どもの頃に裏山やちょっとした空き地につくっていた秘密基地を思い出します。

便利さや快適さに
かたちを与えるプロダクトデザイン

プロダクトデザインコースでは、雑貨やインテリア、そして先端技術を用いた商品など、生活を豊かにするデザインを学びます。

優秀賞作品「Rebirth デスクで使用できる仮眠器具の提案」(田中寛人さん)は、睡眠不足に陥りがちな日本のビジネスパーソンに向け、オフィスで使える仮眠ツール。
 15〜20分程度の仮眠(パワーナップ)を快適な姿勢・環境で行えるようデザインされたプロダクトです。

展示会場を進むと、特撮ヒーローのイベント会場さながらの空間も……!

成安造形大学では2015年に「成安造形特撮部」が有志によって創部され、「芸大星ディザイアン」というヒーローが生まれました。成安造形特撮部のメンバーでもあるプロダクトデザインコース・斎藤雅志さんの展示では、歴代キャラクターのデザインや設定、アイテムの数々が展示されていました。

特撮部OB・OGから受け継いできた歴代キャラクターの細かな設定図や、つくり込まれたアイテムの数々から特撮愛がビシビシ伝わってきます。さらに、ホールでは「芸大星ディザイアン ヒーローショー」も行われ、ちびっ子たちに大人気でした。

素材から手がける
唯一無二のコスチューム

染色や織物の技術を学び、ときには素材から自分で手がけ、オリジナルの服づくりを目指すコスチュームデザインコース。展示会場には、4年間の集大成として制作された各学生の個性豊かなコスチュームがトルソー(マネキン)やインスタレーションで展示されています。


優秀賞の「体の線」(土屋亜紀子さん)は、抽象画のような1枚の布から、人が着ることではじめて衣服として機能するコスチュームを制作。

また、コスチュームデザインコースは京都文化博物館別館で行われるファッションショーも見逃せません。次回のレポート最終回では、ファッションショー「SEIAN COLLECTION 2018 -costume-」の様子を舞台裏を交えてお伝えします。


取材日:2018/02/11
取材・文:小西七重
写真:加納俊輔

卒業制作展2018レポート 【美術領域】

REPORT

卒業制作展2018レポート

日本画、洋画、現代アート。
自分の声を作品で届ける美術領域編

美術領域ってどんなところ?

美術の基本である「描くこと」「つくること」「表現すること」を通して、さまざまな技法や知識、表現力を高め、アートに必要な基本技術を養っていきます。同時に、「なぜこの作品を作るのか?」「何を世の中に伝えたいのか?」と、自分自身や社会を見つめ、考え抜く力も養っていきます。卒業生は、美術やデザイン、広告、商品開発など、幅広い分野で活躍しています。

伝統的な技法を学びながら
“今”を表現

成安造形大学の美術領域には、鉱物や植物など自然素材でできた素材を用いて表現する日本画コースと、西洋絵画の専門的なプロセスや技法、画材などを学び、表現の幅を広げる洋画コース、多種多様な素材やメディアを用いる現代アートコースがあります。


「おとせ入水」(渡邉 愛さん)は、日本画コースで優秀賞を獲得した作品。屏風に描かれた作品を前にすると、美しさと怖さ、儚さのようなものがじわりじわりと襲ってきます。

美術領域・高田 学准教授(日本画コース担当)によると、日本画コースには日本の古典美術が好きで、和のデザイン要素を学んで作品に取り入れたいと考える学生が多いそう。
「日本画は観察・写生・制作中の絵の具の乾燥など、それぞれゆったりと時間がかかるためか、おっとり物静かな学生が多いかもしれません。近年とても優秀な学生が増えていて、4年間のなかで対象をしっかり観察して日本画の制作スタンスを学び、日本美術の要素に理解を深めてくれます。入学時はほとんど目立たなかった学生が、3年生になると自身の表現の独自性に気づき、自信を持って作品を発表することもありますね」。

真っ白なキャンバスに
描かれる新しい世界

西洋絵画の古典技法からシルクスクリーンまで幅広く絵画表現を学ぶ一方、3年次からは各自のテーマを追求し、作品を制作する洋画コース。


卒業制作展で発表されていた作品も、抽象的な作品から、ポップで鮮やかな色彩の作品、身近なモチーフを描いた作品まで実にさまざま。
 ただ、何もない白いキャンバスに自分の世界をぶつけることは、簡単なことではありません。
「2年生の後期から3年生あたりに、自分の作品に対して不安を抱き、自信をなくす学生も少なくありません。そんななかでも、“制作が楽しい”とか“良い作品をつくりたい”という想いでしっかりと制作に励んだり、学生同士で刺激し合ったりして、3年生の後期から4年生になると、自分の作品テーマや表現方法に納得していく。その頃には、自信も持ち始め、考え方もしっかりしてきたように思います」と、美術領域・伊庭靖子教授。

優秀賞作品の「きっと4a/きっと4b」(坂下菜緒さん)は、大型のキャンバス2枚で構成された作品。淡い色彩で描かれた抽象的なかたちは、植物を拡大鏡で覗いたようでもあり、新しい生命体の一部のようにも見えてきます。

素材も技法も
発想次第の自由な表現

絵画、彫刻のみならず、写真、パフォーマンス、最新のテクノロジーや自然現象、人と人とのコミュニケーションを生み出す“仕掛け”や“仕組み”など、アイデアとテーマ次第で自在な表現が可能な現代アート。

現代アートコースでは、平面・立体・メディア・場をテーマにした作品制作から素材や技法を学び、あらゆるメディアや素材を駆使して自分の表現を確立していきます。

優秀賞を獲得した「かたちをのこして」(走出渉子さん)は、暗闇の中に吊るされたペンライトを、鑑賞者が動かすことで光の軌跡が床に描かれるという作品。
 床には畜光シートが敷かれ、鑑賞者が去ってもしばらくは光が描いたラインがその場に残ります。会場では子どもたちがはしゃぎながらペンライトを動かしている様子が印象的でした。

取材日:2018/02/11
取材・文:小西七重
写真:加納俊輔

卒業制作展2018レポート 【メディアデザイン領域・後編】

REPORT

卒業制作展2018レポート

五感を駆使して伝える
メディアデザイン領域・後編

メディアデザインって何?

卒業制作展2018レポート、今回は堀川御池ギャラリーと京都シネマで行われたメディアデザイン領域編です。
 現在のコースで言うと、情報デザイン領域にあたりますが、2018年3月までは写真、グラフィックデザイン、映像・放送、アニメーション・CGの4コースからなる領域でした。メディアデザインとは、様々な媒体を用いて情報やメッセージを発信すること。わかりやすく職業で言えば、デザイナーやカメラマン、アートディレクターなど。言葉以外の方法で、言葉よりもわかりやすく、伝わりやすく情報をデザインすることを学んでいます。

一瞬たりとも目が離せない
3DCGアニメーション

アニメーション・CGコースと、映像・放送コースの作品は、「SEIAN CINEMA 2018」として京都シネマで上映されました。(一部の作品は堀川御池ギャラリーにて展示。)
 映画館の大スクリーンで観る作品は、モニター展示とは異なり、1作ずつ集中して鑑賞することができます。


なかでも、観客席が「おっ!」と全員前のめりになったのが、優秀賞「Reversible HEART」(仲里佳祐さん/アニメーション・CGコース)。桃太郎をモチーフに展開されるCGバトルアニメーションは、キャラクターデザイン、3DCGのモデリング、キャラの表情からアクションに至るまでの動きやカット割り、そして音楽に至るまで、プロ顔負けのクオリティ。


どうやって制作したの?
気になる制作秘話

 一体どうやって制作したのかが気になり、仲里さんに制作秘話を聞いてみました。実は仲里さんは1・2年生まで総合領域、3年生でアニメーション・CGコースに変更したのだそう。えっ!? わずか2年間でこんなクオリティの3DCGがつくれるもの……?
 まずは卒業制作展から約1年前、3年終了時に仲里さんが制作した「スシドウ」を観てみましょう。


3DCGアニメーションをつくる工程はいくつか段階があり、まず最初は企画。「スシドウ」の場合は就活で見せられるものをつくるという目的が企画になります。次に、ストーリーやキャラクターを決め、絵コンテを作成。その後、モデリングをして骨組みを入れ、キャラクターを動かし、最後に映像を編集して、音を付けます。

「「スシドウ」制作時、CG歴1年だった仲里さん。いくら考えてもストーリーが面白くならないことに悩み、シェアハウスに住んでいた先輩に相談。すると、「真面目に考えすぎるねん。もっとくだらんこと考えたらええやん」とアドバイスをもらい、その場で盛り上がったストーリーは、それまで数ヶ月悩んでいたものよりも格段に面白いものだったとか。
「そのとき、自分ひとりでつくるよりも、得意な人たちの力を借りようと思いました。卒業制作ではアニメーションやキャラクターの感情表現等、自分の得意分野でもっと掘り下げたい部分がいろいろありました。なので、苦手な部分までひとりで作ろうとはせず、僕が日頃”この人にはかなわないな”と思っている人たちに声をかけたんです」

そこで、卒業制作では、東京のゲーム会社でデザイナーとして働く先輩にストーリー構成とキャラクターデザインを依頼。演出や絵コンテは映像・放送コースの松田淳生さん、音楽はイラストレーションコースの寺西 大さんにお願いすることに。仲里さんは、監督・プロデューサー・制作進行・CGアニメーション制作を担当。こうして“最強チーム”で挑んだ卒業制作の作品が、優秀賞を獲得した「Reversible HEART」だったのです。
「いろんな人の力を借りて、やりたかったことが達成できた今、4年間を振り返って思う成安の魅力は、コース間の敷居の低さだと思います。他コースの先生も相談に乗っていただいて、やりたいことをサポートしてもらって、いろんなことができたので“成安に来て良かったな”と思いました」

物語が進むにつれて引き込まれた
38分の長編作品

同じく、「SEIAN CINEMA 2018」で上映され、映像・放送コース優秀賞に輝いた作品は、仲里さんの作品で演出と絵コンテを担当していた松田淳生さんの「五感の質屋」。
 ある男性が不思議な質屋に辿り着き、難病の娘の寿命を延ばすために、五感をひとつずつ質に入れて失っていく――。38分の長編ながら、メリハリのあるカット割りと演出でぐいぐいお客さんを引き込み、最後にはホロリと涙する人の姿も。
 キャストやロケ地はどうやって用意したのか? どんなふうに制作したのか? 松田さんに制作の裏側を聞いてみました。

実は松田さん、1年生のときはイラストレーションコースだったそう。1年間授業を受けるうちに「仕事としてイラストを描き続けたいわけじゃないな」と思い、高校時代は演劇部に所属し、芝居が好きだったこともあり、映像の道に進むことを決意。3年生の終わり頃には、作品の構想を練っていたと言います。
「カリキュラム的には、卒業制作の企画を考えるのは4年生になってからなんですけど、僕は3年生の終わりには企画を決めていました。高校が芸術系だったので、卒業制作で漆器をつくっていたりしたんですけど、1年くらい時間をかけていたんです。とくに映像作品は、自分ひとりでつくれるものではなくて、キャストやカメラなど、人に協力をお願いする必要があります。だからこそ、脚本やスケジュールなど、自分ひとりでできるところはきちんと準備をしておかないといけないなと」

「こうして、高校生のときに出会った、とある心療内科のwebで掲載されていた物語「五感の質屋」を原作に、ドラマを制作することを決めた松田さん。脚本、絵コンテ、スケジュール、撮影場所を考え、キャストは友人や家族のほか、劇団サークルの新入生歓迎公演を観て「いいな」と思う人に声をかけて協力してもらったのだとか。
「撮影場所も、成安のあちこちで撮影しましたし、僕の家や、祖母の家でも。自分のコネクションを最大限に使ってキャスティングして、ロケ地も機材も、使えるものを全部総動員した感じです(笑)。やりきりました」


 入学したとき、4年後に“やりきった”と言える作品がつくれることを想像できていたか? と松田さんに尋ねると、こんな答えが返ってきました。
「なるやろうなと思ってました。というか、“できない”って選択肢はなくて、かといって、すぐにつくれるようになるわけでもない。だから、なんとなくでも、自分が求めるものは思い浮かべておいて、それまでに何が必要か? を考えて、順番にそれをやっていくしかないんです。そのためには、先生も大学も利用したし、知り合いのそのまた知り合いまで繋がりを持って、吸収できるものを吸収して。大学の4年間は、制作もそうですけど、軽音部や学生会など、いろんな種類の時間がありました。卒業制作だけでなく、僕の時間イコール、ほかの人の繋がりだったり、そういう人によって生み出された時間でしたね」

 入学後に見えてくる、新しい世界や可能性。だからこそ、成安造形大学ではコースを変更する学生も少なくないと言います。また、領域を超えて仲良くなる学生も多い。とくにアニメーションや映像の分野は、脚本・演出・撮影・編集など、プロの現場ではそれぞれの工程で専門職が必要とされます。
 卒業制作は“ひとりでつくるもの”だけではなく、4年間で培った繋がりや出会いを活かしてつくる方法もあるのです。

取材日:2018/03/03
取材・文:小西七重
写真:加納俊輔

卒展レポート2018【メディアデザイン領域・前編】

REPORT

五感を駆使して伝える
メディアデザイン領域・前編

メディアデザインって何?

卒業制作展2018レポート、今回は堀川御池ギャラリーと京都シネマで行われたメディアデザイン領域編です。まず、前編は堀川御池ギャラリーの展示を紹介します。
 現在のコースで言うと、情報デザイン領域にあたりますが、2018年3月までは写真、グラフィックデザイン、映像・放送、アニメーション・CGの4コースからなる領域でした。メディアデザインとは、様々な媒体を用いて情報やメッセージを発信すること。わかりやすく職業で言えば、デザイナーやカメラマン、アートディレクターなど。言葉以外の方法で、言葉よりもわかりやすく、伝わりやすく情報をデザインすることを学んでいます。

見えないものを、見えるように

情報をデザインする目的のひとつに、”見えないものをかたちにする”ことがあります。例えば、優秀賞「Graphic Score」(村上万季さん/グラフィックデザインコース)は、耳で楽しむ音楽を、目で楽しめる絵本で表現。


音の情報(譜面)は、特定のスキルを持った人にしか、視覚から音を想像することはできません。また、音そのものは聴覚から得る情報なので、目には見えません。楽曲ごとにグラフィカルな図形に変換された譜面は、アップテンポで音が複雑な曲なのか、繊細な曲なのか、どこで盛り上がるのか、目で見て直感的に音を想像する楽しさがあります。

 

商品化希望!魅力的なツールの数々

なかにはすぐに商品化できそうな完成度の高いパッケージのものも。佳作「もしものとき、どう生きたい?」(今川優美さん/グラフィックデザインコース)は、最近注目されつつある生前の意思表明書「リビング・ウィル」を親しみやすく、誰でも簡単に使えるようにと制作したキット。

「滋賀県大津市で活動する在宅療養サポートチーム・チーム大津京の協力を得て、「リビング・ウィル」がなぜ必要なのか? どういった役割があるのか? 専門的知識を踏まえてつくられていました。

ほかにも、花言葉に乗せて想いを伝えるレターセット「一輪箋」(古屋舞子さん/グラフィックデザインコース)

眠りに落ちる前のまどろむ瞬間をかたちにしたステーショナリー「yötä」(長倉志皇里さん/グラフィックデザインコース)など、その場で購入したくなる作品も。

視点を変えて、世界を変える

見慣れたものや、当たり前のように捉えられていることも、視点を変えるとガラリと違った世界が浮き上がってきます。奨励賞「こんにちは!コンプレックス」(中村莉菜さん/グラフィックデザインコース)は、誰もが抱くコンプレックスがテーマの作品。


モニターの映像は、その人自身がコンプレックスを感じている顔のパーツが、モーフィングを使ってどんどん他人の顔パーツに変化していくというもの。じっと見ていると、一体どのパーツが本人のもので、どのパーツが他人のものなのか、わからなくなります。というより、本人が感じているコンプレックスは、他人から見ると何でもないというか、気にならないものなんだな……と再確認します。

「コンプレックスなんて気にしなくていいよ!」と言葉で言われても、安っぽい慰めにしか聞こえないものですが、こうしてひとつの現象で見ると「あ、なるほど。そういうものだよね」と妙にストンと納得してしまう。これがメディアを使ってメッセージを発信することの強さかもしれません。。


そのほかにも、VRを使った推理ゲーム、アニメーションを見る空間にもこだわったりと、それぞれがメディアを使った自分なりの方法論を見つけ出し、楽しさやメッセージが”届く”かたちにアウトプットされていました。

取材日:2018/03/03
取材・文:小西七重
写真:加納俊輔

卒業制作展2018レポート 【イラストレーション領域編】

REPORT

絵から自分の世界を展開する
イラストレーション領域編

イラストレーション領域ってどんなところ?

キャラクターやパッケージを彩る装飾画や挿絵。そしてマンガや絵本。イラストレーションはあらゆる分野で活用されています。イラストレーションにできること、それはアイデアを形にして伝え、人々を楽しませたり共感を得ることです。イラストレーション領域では、社会で必要とされる美術表現として、さまざまな技法、メディア展開、応用を探求していきます。
*イラストレーション領域は2017年度より、9コースに改変・新設し、カリキュラム内容も変更されています。

ときにデザイナーやプロデューサー的視点で制作する

「イラストレーション」と一口に言っても、様々なジャンルやアウトプットの方法があります。イラストレーション領域の展示では、その多様性や可能性の広がりを手に取るように感じることができます。今回は優秀賞を中心に、イラストレーション領域の幅広い表現を紹介していきます。


まずは、「ORANGE NIGHT DREAM」(杉本真歩さん)

どこかノスタルジックで愛らしい3つの物語を絵本にし、ポストカードやレターセット、トートバッグなどに展開。ひとつのお店のように展示されていました。
「今は誰もが発信できる時代。学生たちも『デザインフェスタ』などに最初はお客さんとして見に行って、次は友達と一緒に出店したりもして、制作するだけでなく、どんなふうにプレゼンテーションすればよいかを考えたりしていますね」と、イラストレーション領域・田中真一郎教授。

 

「鈍色(にびいろ)のアルカナ」(張 寿榮さん)は、78枚のタロットカードのなかでも、最も重要とされ、抽象的な概念を示す22枚の大アルカナをテーマにデザインした作品。

大アルカナが示す曖昧な概念が、美しい人物イラストで再構成されることで、直感的に解釈できるようになっています。並んだ22枚のカードに足を止め、「これ欲しい〜!」という鑑賞者の声も聞こえてきました。

 描くだけでなく、生み出したキャラクターやイラストをどのように展開するか。デザイナーやプロデューサー的な視点を持ちながら制作していくことも、イラストレーターに必要な要素なのかもしれません。

画力と物語を生み出す力、そして言葉を紡ぐ力も必要とされるマンガ表現

イラストレーション領域では、マンガを制作している学生もたくさんいます。キャラクター、ストーリー、コマ割りなど、それぞれがオリジナリティ溢れる手法で作品を生み出しています。
展示会場の一角には、製本されたマンガを自由に読めるスペースもあり、つい夢中で読みふけってしまう鑑賞者の姿も多く見られました。

「ただいま、ダルセーニョ」(朴 玲華さん)は、吃音に悩みながら中学高校と朝鮮学校へ通い、吹奏楽を通して自分を表現する喜びを得た自身の経験から生まれた作品。キャラクターが放つ、リアリティある言葉のひとつひとつが、強く心に残ります。
「ただいま、ダルセーニョ」はその後、COMITIA123で行われたモーニングツー×ITAN アフタヌーン 即日新人賞選考会で優秀賞を受賞。『ITAN44号』(講談社)で掲載され、デビューを飾りました。

独特の表現方法を突き詰める

「sparkle」(堀川理沙さん)は、染料を使ったイラストと小さなおもちゃや雑貨を組み合わせた大型の作品。


実は堀川さん、とある授業がきっかけで作風がガラリと変わったのだそう。
「遠近法で風景を描く授業だったんですけど、色ボールペンで一生懸命描いていました。授業の狙いとは違いましたが、絵がすごく面白いなと思ったんですよね。そうして色を使い始めてからスコンと抜けたというか、カラフルでポップだけど、独特の表現に行き着いた感じがします」と田中教授。

アーティスト、デザイナー、イラストレーター、それらすべてを網羅しているようでもあり、かといってどれかに限定される表現とも少し違う。イラストレーション領域の魅力は、イラストから枝分かれする世界の幅広さにあるのかもしれません。



なぜこれだけ多様な表現がひとつの領域から生まれているのかを、田中教授に尋ねると、こんな答えが返ってきました。
「1年生、2年生はスキルを学ぶ授業が多いんですけど、よく高校生にも話すのが“食わず嫌いでやるといいよ”ということ。大学ではたくさんのことをやりますから、なかには“二度とやらない!”と思うものもあるかもしれません。でも、その反面、ハマるものもどこかにあるはずです。だから、食わず嫌いで何でも首を突っ込んでトライすることで世界は広がると思います」

卒業制作展はプレゼンテーションの場

また、作品の近くに名刺をつくって設置している学生がほとんどで、卒業制作展を機にイラストの依頼や問い合わせがあることも少なくないのだとか。
 実際、展示会場でも名刺を手にとっていく来場者を何人も見かけました。卒業制作展は4年間で見つけた自分の表現を発表する場であると同時に、まだその存在を知らない人たちに向けたプレゼンテーションの場でもあるのです。

取材日:2018/02/11
取材・文:小西七重
写真:加納俊輔

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