INTERVIEW
子どもが自由にお絵描きしたり
集まれる場所を地元につくりたい
在学中にインターンシップでお世話になった大阪を拠点に活動する合同会社エデュセンスに就職をした牧野さん。アートイベントや造形教室、ワークショップなど、さまざまな体験を通して子どもたちに表現することの楽しさを伝えている「ピカソプロジェクト」の告知全般とデザイン、ワークショップの講師などを担当しています。子どもが好きという牧野さんが、子どもとアートに関わる仕事に出会った経緯や、仕事での経験を通して見つけた目標など、自分で未来を切り開くヒントを伺いました。
牧野有さん
エデュケーター
1996年、岡山県生まれ。デザイン科の高校を卒業後、成安造形大学総合領域に入学。2017年、合同会社エデュセンスのインターンシップに参加し、2019年に入社。アートイベントやワークショップを通して子どもたちに自由につくる楽しさを伝えている。
一つの分野を極めるのではなく、
いろんなことを学びたかった
デザインを学ぼうと思ったきっかけを教えてください。
高校でデザイン科へ進んだのはデザインに特別興味があったとかではなく、家の近くの高校にデザイン科があって、なんか楽しそうだなって。手に職がある人はかっこいいし、自分が普通科で勉強をして大学へ進学するイメージができなかったので、それだったら面白そうな方を選ぼうと思いました。授業は手描きでポスターを描いたり、パソコンを使ってデザインをしたり、いろんなことを学べて楽しかったです。
成安を選択したのはどうしてですか?
デザイナーや絵描き、建築家を目指して一つの分野を極めるのではなく、芸術方面でいろんなことを学びたいと思っていました。高校の一つ上の先輩が成安へ進学したのを知って、オープンキャンパスへ行こうと思ったのですが、時期が過ぎていて。ホームページに個別対応もしてくれると書いてあったので、問い合わせをして普段の日にマンツーマンで学内を案内してもらいました。他の芸大のオープンキャンパスにも行ったのですが、こぢんまりとしていて落ち着く感じが良かったのと、高校の延長線でいろんなことを学べる総合領域があったので成安に決めました。
総合領域での学びはどうでしたか?
振り返ってもイラストやデザイン、美術などいろんなことを学べて自分に合っていたと思います。総合領域では「出稽古」と呼ばれている他領域の授業を選択できる制度があるので、関心のある分野を横断的に学ぶことができました。一番好きだったのはイラストレーション領域の商品企画の授業で、自分の描いたイラストを使ってお菓子のパッケージやロゴを考えるというもの。もともと海外のかわいいお菓子のパッケージを見たり、イラストを描くことが好きだったので考えている時間が楽しくて。「出稽古」は他の領域の学生とつながることができるので、たくさん刺激をもらいました。
人と何かをつくるのは難しいけれど、
だからこそできることがある
合同会社エデュセンスとの出会いから就職までの経緯を教えてください。
出会いは大草真弓先生に将来子ども関係のことがしたいと相談をしたのがきっかけです。エデュセンスの副代表と大草先生が知り合いで、すぐに電話をしてくれたのですが、副代表に教育者向けの子どもとのふれあい講座があるからと誘ってもらい、相談した次の日にさっそく行きました。その流れで3年生の5月くらいからインターンとしてイベントのお手伝いをはじめたのですがめちゃくちゃ楽しくて。これが仕事になったら楽しそうだなって思っていたら、ある日の帰り道に社長からSNSでメッセージが届いて「就職しませんか?」って。二つ返事で「就職します」って返したら、すぐに電話がかかってきて、本当にいいのかって確認されました(笑)。
成安でも子ども向けのワークショップをやっていたと聞きました。
滋賀県と公益財団法人びわ湖芸術文化財団が主催するアートイベント「美の糸口 アートにどぼん!」というイベントで子ども向けのワークショップをやらせてもらいました。その年は滋賀県立美術館の改修で会場が成安になったのですが、秋だったので子どもたちと学内にどんな葉っぱが落ちているか探しにいって、輪っかにした帯状の紙に集めてきた落ち葉をくっつけて帽子にしました。みんなが楽しんでつくってくれてうれしかったです。
入社4年目、どのような業務を担当していますか?
イベント現場でワークショップの運営や教室の先生、イベント告知のチラシのデザインなどいろんなことをやらせてもらっています。2020年の年末に開催した「オズの魔法使い」のキッズミュージカルという公演のチラシは、成安の同級生で「出稽古」で仲良くなったメディアデザイン領域(現:情報デザイン領域)の吉田さやかさんにイラストを描いてもらいました。演目が『オズの魔法使い』だったので、イラストを使ってつくりたいと思い、社長と副代表に吉田さんのイラストを見せたら気に入ってもらえて。タイトなスケジュールだったのですが一発OKでかわいいイラストを描いてくれました。卒業しても一緒に仕事ができるのはうれしいですね。
ディレクションも牧野さんがされているんですね。
そうですね。演者が衣装を着ている写真を吉田さんに送って、親子で楽しめる演目ということを伝えて、吉田さんのタッチで描いてもらいました。総合領域の授業でプロデューサーみたいにいろんな人と連携をして企画をつくる授業があって、そのときはあまり考えずにやっていたけれど、社会に出て発注する側になると伝え方で仕上がりが変わることを実感して、人に頼むってこういうことなんだなって! 先生が言いたかったのはこういうことだったんだと納得しました。人と何かつくるのは難しいけれど、だからこそできることがあるのを感じます。
いろんな人と関わる仕事はコミュニケーションが大切ですよね。
商業施設でワークショップをやるときも、主催者の考え方と私たちの考え方があって、双方で重きを置くところが違うので、話し合いながらいい落とし所を考えるようになりました。まずは集客をしないといけないので、クリスマスならツリーやリースづくりといった王道なものが人気なのですが、それを私たちがどう面白くするかが大事で。エデュセンスの素敵なところは、うまくつくることよりも、子どもがのびのび自由に表現できる手助けをしているところなので、どんな内容のワークショップでも声のかけ方を大切にしています。
仕事で一番楽しいのは何をしているときですか?
教室の先生をやっているときです。ピカソプロジェクトが運営している教室が大阪の他に、滋賀県の大津、東京の西新宿、北海道に2つあって、私は月に一回大津の教室で先生をやっています。いつも10人くらいの子どもが参加してくれて、紙をちぎって何ができるか考えたり、木材の切れ端をグルーガンで好きな形に組み立てたり、「この画材や材料を使って自由につくっていいよ」というと、子どもたちはよろこんで創作をはじめます。
牧野さんが学生時代にいろんなものをつくっていたからこそ、伝えられることがありますか。
小学校3年生くらいになるとうまくつくりたい欲が出てくるので、親が知らない技法を教えてあげることができたり、自分がつくってきたからこそかけてあげられる言葉があるのを感じます。子どものいいところを見つけて声をかけることが多いのですが、「そこを見てもらえているんだ」って子どもたちはよろこんでくれるので、気付ける人でありたいです。
身近な誰かに相談すると
ラッキーなことがあるかも!?
これから成安で学ぶかもしれない学生にアドバイスするなら、何を伝えますか?
とりあえず相談してみる。身近な人に「こんなんやりたいんです」っていうだけで変わることがあると思います。私は先生に相談した次の日にうまいこといって、その流れで就職した口なので(笑)。一人で調べることも大事ですが、誰かに言ってみるのもいいんじゃないかなって。課題のことでも就職のことでも、言ってみるとラッキーなことがあるかもしれないです。
牧野さんの今後の目標を教えてください。
エデュセンスの運営に関わるようになってから、子どもが自由にお絵描きをしたり、集まれる場所を地元につくりたいと思うようになりました。在学中から岡山に帰りたいと思っていたので、大阪のスタジオでやっているようなことを岡山でできたら楽しそうですね。
※エデュケーター…合同会社エデュセンスのスタッフの呼称。エデュセンスはエデュケーション(教育)+エンターテイメント(楽しむ)+センス(感性)の造語。「こどもたちの表現をのびやかに引き出す教育」を推進することを目的に、全国のイベントや教室で子どもたちを笑顔にする活動を行っている。
2022 11/01